石を運ぶ
石と人類の縁は長い。石器時代なんて言葉はまさにそうだ。
石はまた、昔から建築資材に使われてきた。
城の石垣なんぞを見ると、
どうやって人力のみで組み上げたのか不思議に思う。
琵琶湖周辺には古代から
朝鮮半島の渡来人の技術集団が住んでいて、
戦国時代から江戸時代にかけて、
大名から重宝され、石積み仕事に働いていたという。
それにしても石である。しかも石垣などは巨大な石である。
人力のみの昔はどうやって扱ったのだろう。
まず切る事からだ。
現代だったらダイヤモンドの付いた巨大な鋸で
ギュイーンと切ってしまう。
だが機械などに動力化されたのは昭和になってからだ。
そんなもののない昔は、
少しずつツルハシなんぞで切り込みを入れて、
でかい金槌でぶったたいて割り、
その後ノミで整えたのだろうか。
運ぶのはどうか。
城の石垣などはとてつもなく重いので、
丸太を下に引いて転がすのが賢明だ。
ピラミッドの建築現場の絵図でもおなじみである。
動力を使わない、重さがある、となると、
車輪付き荷車という発想が出てくる。
とんでもない所に走って行かない様、
荷車を導いてくれる道が必要になって来る。
さあ軌道の出番だ。
高低差をうまく使えば、動力を使わず軌道を使って、
石切り場から船着場のある川や海まで運び出すことができる。
空の台車くらいなら、牛や馬で山へ運び戻すぐらい可能だ。
そう考えると石切り場=軌道という図式は必須ではないか。
日本には石を運び出す軌道がどれほどあったか分からないが、
総延長数十キロの軌道から数mの軌道まで、
それこそ無数の軌道があったに違いない。
ひょっとしたら今も残っていないだろうか。
いつもの悪い空想が頭をよぎり、石の有名な産地を物色する。
関東地方で有名所といえば、まず大谷だ。
早速車を北に走らせた。
栃木県は宇都宮のはずれに大谷はあり、
ここの石が使われてきた歴史は古く、
奈良時代から既に使われていたらしい。
石のなかでも軽くて柔らかいので加工しやすかった為であろう。
手で触るとザラッと表面の粒が指に付く位柔らかい。
もっとも本格的に採掘されたのは明治になってからで、
最盛期には軌道の人車を押す人の吹くラッパ音で賑わったらしい。
大谷には大谷資料館があり、
東京ドームがすっぽり入ってしまう地下空間を見ることが出来る。
さすがに軌道は残っていないが、
石を運んだ人車が展示されていた。
地下入り口はその人車の横にあるが、
人一人入れる位の入り口からは想像できないほど中は巨大だった。
平均温度が13度C。
半そでで入ると長時間いるのは厳しいくらい涼しい。
一通り中を見て回った。
さて次の有名所は茨城県の笠間だ。
こちらは御影石である。
重量があり硬く、磨くと光沢の表面になるアレなのだ。
正式名称は稲田白御影石という。花崗岩だ。
愛知県の明治村に保存されている帝国ホテルは、
この石が使われており、いわゆる高級品なのだ。
もちろんここも軌道などは残ってはいないが、
地元メーカーの㈱タカタさんがやっている
「石の百年間」という資料館に台車が残っていた。
台車以外にも軌道に関する資料が沢山あり、
明治時代に軌道を施設する際国に許可を求めた資料もある事から、
相当大規模な軌道だったのであろう。
古い写真には石切り場を這う様に敷かれた軌道が写っていた。
ここに行って初めて知ったのだが、
タカタさんでは採掘を今年で終了したとの事だ。
更にこの資料館も5月末をもって閉館するそうだ。
なんで、とタカタさんの社員に話を聞いた所、
中国などの輸入品が安く、採掘するより海外品を買ったほうが
安いからだと言う。
ここにもグローバル化に飲み込まれる産業があったのだ。
ただし石の備蓄も10年分以上あるとの事で、
石材産業の商売のスパンの長さに呆れてしまった。
ぜひ石切り場を見てみたいと思い、
資料館の向こうに聳える石切り場の山を指差すと、
もう中に入るんは無理だと言われてしまった。
残念がっていると、
隣の会社では見せてくれるので紹介するよと言われ、
好意を素直に受けた。
でも、あの向こうに見える同じ山なのではと尋ねると、
いや会社の中にあるよと言われ、?と疑問に思いつつも
その隣の会社へ向かった。
隣の会社はところどころ軌道の痕跡があった。
「石切り場はそこですよ」とその会社の社員にも言われ、
またも?と思い、どこに山がありますかと聞いたところ、
山ではなく地面です、50mぐらい歩いていけば見れますよ、と言われ、
しかたなくとぼとぼと歩いていったところ、驚愕の風景に出くわした。
なんと月面にあるクレーターか、隕石が地球に衝突したかの様な
巨大な穴の風景が足元に広がっていた。
深さもどのくらいあるのかちょっと見当がつかないくらい深い。
夢中でカメラを向けていると、採掘場の崖のてっぺんで、
並べたトラックの前に立って、「S急便」の男たちが、
なぜか空に向かって拳を突き上げていた。
まさに石の男たちであった。
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